ぼくのようなペイペイの役者にとっては、文字通り“雲の上の存在”だった名優・森繁久弥さんが亡くなられた。11月10日午前8時16分、老衰のため眠るように逝ったと報じる新聞記事が哀しい。
もう33年も前のことになるが、TBSをキー局に放映された連続テレビドラマ「三男三女婿一匹」という番組で、ぼくは初めて森繁さんと絡む役を頂いた。たった1シーンではあったが、いまでも鮮明に覚えている。
このドラマは森繁さんが個人病院の院長役を主演され、その主人公が家族ぐるみで営んでいる桂病院を舞台に、そこで繰り広げられる人間模様を描いた、いわばTBSオハコのホームドラマであった。
で、ぼくが関わったのは、注釈(*)をつけると以下のようなシーンだった。
◎桂家=病院=本宅・食堂(夜)
*主人公桂大五郎と長男の
啓介が話しているところに・・・
インター 上野×町の榊さんから、電話が入って
ホンの声 ます、
大五郎 つないで(と待って)やあ、暫く・・・・仲良くやっ
とるかい?! え?! ミサちゃんが?! 待った、動
かさんほうがいい・・・すぐ行くから・・・判った、
と切って
大五郎 往診だ
啓 介 榊さんって、父さんが仲人したあの人・・・・・?
大五郎 ミサちゃんて、三つになる赤ん坊が三階のベラ
ンダから・・・・
啓 介 落ちたの?!
大五郎 ・・・・・動かせる様なら、直ぐ手術するから
と出て行く
啓 介 (インターホンに)外科、緊急手術の用意をして
待機・・・・車を用意して、当直看護婦一名乗っ
て待っててくれッ
と出て行く
◎同、病院、廊下
小走りに行く大五郎
◎同、ロビー
大五郎 早くしろ、早く・・・・
啓 介 (外から入って来て)もう、みんな乗り込んで
るよ
大五郎 あ、そうか
と急ぎ出ていく
◎榊家・表
女の子駆け出してきて、うずくまり泣く。
(間)
啓介、大五郎、看護婦やってきて、思わ
ず 足がすくむ
大五郎 ・・・・・・
啓 介 ・・・・院長、とに角・・・・・
大五郎 うむ・・・・
◎同、座敷
枕頭に、白布がかけられ、若い母親が
泣いている。
大五郎入って来る、
父 親 ・・・・・先生・・・・ッ
大五郎 ・・・・・・・
父 親 先刻、近所の先生に診て頂いたんですが・・・・
母 親 ・・・・私がいけなかったの、私が・・・・・ミサちゃん
御免・・・・ミサチャン・・・御免ッ
と取り乱している
父 親 おいッ
大五郎 ・・・・
大五郎白布を取って見る
父 親 ・・・・桂先生・・・脈だけでもとってやって頂けませ
んか・・・
大五郎、黙って女の子の手をしっかりと握る
父 親 落ちた時には・・・・意識がなくて・・・・人工呼吸も
して下さったンですが・・・・
大五郎 (*アドリブで)どのくらい・・・・
父 親 三十分ほど前です
大五郎 何の役にも立てなくて・・・・
啓 介 ・・・・・誠に残念でした、
以上が直接関わったところで、父親役をぼくが、母親役はぼくと同じ事務所の女優さんで普段から「おすみさん」と呼んで親しい坂井すみ江さんが演った。森繁さんのマトを得たアドリブは有名だが、人物形象や芝居での間の持ち方など、凄い勉強をさせて頂いた。 (合掌)
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