2009年7月25日土曜日

いつか来た道

 予定表や日記欄を備えた日付入りの携帯用手帳は、巻末部に大概「年齢早見表」が載っていますよね。私はもう何十年と同じ形式の能率手帳を、所属している日本新劇俳優協会から頂戴して使ってますが、その年齢表にはとても重宝しています。

 2009年度版の現在使っている手帳の年齢表は、1909年(明治42年)から今年まで、要は100歳から0歳までの一覧表なんです。何が重宝かと言いますと、西暦と和暦・干支が一目でわかるところです。1960年に芝居を始めたんだけど、あれは昭和なん年だっけ、なんてことがよくあります。

 身内の慶事や身辺の出来事など、西暦よりは和暦のほうがピンと来るんですが、最近は世の中のグローバル化もあるのでしょう。西暦表示が普通になってきましたね。なまじ和暦など継承しないほうが面倒が無くていいのかも知れません。

 さて、手帳にもよるのでしょうが100歳までの私の手帳では、明治41年生まれの父の生年は消えました。そうか、生きていれば101歳なんだなあ──と、今年の年齢表を開くと、ちょっぴり感傷的になるんですよ。

 1908年に東京・浅草で生まれた親父は、丁稚奉公から家具職人になりましたが、その家具が「ちゃぶ台」というやつ。昭和20年代までは各家庭の食卓として必需品でしたのが、その後、洋式テーブルに追われ、職人気質の末路は哀れでした。その親父も1983年、74歳で他界してます。

 親父が生まれた明治41年は、文豪・夏目漱石が朝日新聞に「三四郎」を連載しています。幕末から明治維新を経て、いよいよ日本が近代化の軌道に乗った頃なんですね。平成のこんにちからは遠い昔話ですが、私には決して古い気がしないのです。お爺ちゃんの時代ですから、

 子供のころ、私を跡継ぎに目論んでいた親父でしたが、和式家具の衰退で諦めたようです。私は芝居の道に入り、職人の役をやるときは必ず親父を思い出します。生前、私が出演するテレビドラマを楽しみに(シャイで口に出すことはありませんでしたが)何より応援してくれました。

 かく言う私めは相変わらず鳴かず飛ばずの俳優稼業で、身内の心配をよそに自由気ままに好きな道を続けてます。先日はNHKの夏の特番のロケがありまして「ホームレス」役をやりました。どんな役でも現場は最高、役創りには苦しむけれど、苦痛と快楽は紙一重です。

 

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