2008年6月30日月曜日

車寅次郎の売啖呵

 もののはじまりが一ならば、国のはじまりが大和の国、島のはじまりが淡路島、泥棒のはじまりが石川の五右衛門なら、助平のはじまりが小平の義雄。
 はじめばかりじゃあ話にならない、続いた数字が二つ、兄さん寄ってらっしゃい吉原のカブ、日光、けっこう、東照宮、仁吉が通る東海道、憎まれ小僧世にはびこる、仁木の弾正、お芝居の上で憎まれ役。
 続いて数字が三、三で死んだが三島のおせん、おせんばかりがおなごじゃないよ、かの京都は極楽寺坂の門前で、小野の小町が三日三晩、飲まず食わずに野たれ死んだのが三十三、とかく三という数字はあやが悪い。
 続いた数字が四であります。四谷、赤坂、麹町、ちゃらちゃら流れる御茶ノ水、粋な姐ちゃん立ち小便、白く咲いたが百合の花、四角四面はとうふ屋の娘、色は白いが水くさい、一度かわれば二度かわる、三度かわれば四度かわる、淀の川瀬の水車、たれを待つやらクルクルと。
 ご(五)ほんごほんと浪さんが、磯の浜辺でねえあんた、わたしゃあんたの妻だもの、 昔、武士の位を禄(六)という、後藤又兵衛が槍一本で六万石。
 ろくでもない子供ができちゃいけないから、教育資料の一端としてお父さん、ピース一個買うお値段で、買っていただきましょうこの英語の本、メンソレータムにDDT、NHKにマッカーサー、古い英語がズラーッと書いてある、表紙も赤いよ、赤い赤いは何見てわかる、赤いもの見て惑わぬ者は、木ぶつ、金ぶつ、石仏、千里旅する汽車でさえ、赤い旗見てちょいと止まる。続いた本が色が黒い表紙、色が黒いか黒いが色か、色で惑わす万朶(ばんだ)の桜、色が黒くてもらい手なけりゃ山のカラスは後家ばかり、色が黒くて食いつきたいが、あたしゃ入れ歯で歯が立たない。
 七つ長野の善光寺、八つ谷中の奥寺で、竹の柱にかやの屋根、手鍋さげてもわしゃいとやせぬ、信州信濃の新蕎麦よりも、わたしゃあなたのそばがよい、 あなた百までわしゃ九十九まで、ともにシラミのたかるまで。

 以上、映画「寅さん」の売啖呵、寅さんこと渥美さんの名調子が忘れられません。若いころ、発声と喋りの訓練などに随分使わせてもらいました。

 この口上のなんというバカバカしさ。とても楽しい気分にさせてくれます。ただ、これらの言葉や意味がだんだん若いひとたちに伝わらなくなっているようですね。

0 件のコメント: